少しずつ、見えるミライ

「朝陽君は?」

「お店で食べるなら、水炊きとかモツ鍋とかがいいかな。家なら、普通に寄せ鍋も好きだけど、最近作ったゴマペースト入りの豆乳鍋が美味くて、なかなか好評でしたね。」

「そんなのわざわざ作ってんの?」

「相方がいる時は、いろいろ作りますよ。料理好きだし。」

「あっ、そうか。もしかして旅館仕込みとか?」

「いや、そこまでちゃんと出汁採ったりはしないですけどね。」

「家じゃ、やっぱり無理なもの?」

「同じ材料揃えたら、大変なことになっちゃうから、『ほんだし』で十分です。」

「ふ〜ん。でも、朝陽君が作る鍋って美味しそう。食べてみたいなぁ。」

「いいですよ。機会があれば、何でも作ります。」



そう言えば、彼はどうやら老舗旅館の息子で、繁忙期は皿洗いをして、おこずかいをもらっていたらしい。

子供の頃から旅館に遊びに行っては、賄いやら進物やらを大女将であるおばあちゃんと一緒に頂いていたそうだから、料理が好きだったり、美味しいものを知っていたりするのも頷ける。



そんな環境で可愛がられて何不自由なく育ち、大学を出たら帰って実家を継ぐ予定だったのが、戻らずに夢を目指したいと言い出したがために、お父さんとは大喧嘩。

それまでは仕送りに頼って生活していたものの、そうも行かなくなり、今はとりあえず、ダンスサークルでずっとコンビを組んでいた相方君のアパートに転がりこみ、何とか生活を送っているのだとか。