少しずつ、見えるミライ

帰宅した修ちゃんは、私の質問に驚くほど淡々と答えた。

浮気という罪を犯した自覚が、あんまりないのかなって思えるくらい。



だったら、なんであんなに切なそうな顔をして、あの日、私を抱きしめたの?

あれは、私に悪いと思ったからじゃなかったの?

修ちゃんのことを好きな女の子と浮気をするのは、たいしたことじゃないの.......?



本人を目の前にすると、やっぱりダメだ。

思っていることを全部吐き出したいのに、出てくるのは涙ばかりで、ちゃんと気持ちを伝えられない。

ただ、感情が高ぶるだけで、言いたい言葉が出て来ない。



なのに、修ちゃんは、黙って、あの日みたいに私を抱きしめようとする。

どうして?

そんなことじゃ、ごまかされない。

だいたい、他の子を抱いた手で、そうすること自体が許せない。



子供の頃、私は何度かこの光景を目にした。

浮気や借金がバレる度、何故か、父は泣きじゃくる母を、とても愛おしそうに抱きしめていた。

幼心にそれが白々しく見えて、とても気持ちが悪かった。

だから、私はそういう目に会いたくないって、ずっと思って生きていた。



なのに、これじゃ同じじゃない。

安定した幸せを約束してくれるはずの旦那様に、こんなひどい裏切り方をされて、立ち直れなくなっている。

挙句に、こんなのって、どういうこと?



今まで信じて来たものすべてが、信じられない。

もういい、もうヤダ。

こんなに苦しむなら、もう何にもいらない.......