少しずつ、見えるミライ

憂鬱な気持ちのまま、売り場に立ち続けていたら、4時ちょっと前くらいにマダムがやって来た。

外商部の皆さんと、副店長を引き連れて。



マダムは彼を見つけると嬉しそうに歩み寄り、ロールケーキをお孫さんが気に入った話に始まって、一しきり世間話をしてから、ケーキを適当に20個くらい見繕って欲しいと、私にご注文して下さった。

いつもながら、本当にありがたい。



でも、あの様子じゃ、彼がこのバイトを辞めたら、マダムはうちに来なくなっちゃうかもな。

とてもじゃないけど、このギャル崩れにマダムの相手は務まらないだろうし。



「朝陽君、すご〜い。年上キラーじゃん。店長だけじゃなくて、あんなゴージャスなオバさんも堕としちゃうんだ。」

「はぁ? すぐそういう言い方すんの、やめろよ。俺はどのお客様にも、同じように接してるつもりだけど。」



ちょっと、小娘!!

あんた、何言ってんの!?

彼は難なくスルーしてたけど、「店長だけじゃなく」って、何なのよ!?



「そうは見えなかったけど。」

「いいから覚えとけよ。あの人は、ご家族で外商がお世話になってる御得意様なの。店舗に出向いて下さった時は、心を込めて接客するのが礼儀だろ。」

「何、小難しいこと言ってんの?」

「そっちこそ、しっかりしろよ。社員だろ。」