少しずつ、見えるミライ

「私、冷蔵庫行って、ロールケーキの在庫、取って来る。理恵ちゃん、その間、よろしくね。」



社員という立場上、敢えて「理恵ちゃん」の名前を出したけど、この場合、お願いしてる相手は、明らかに彼と沙苗ちゃんだ。

みんなに聞こえるよう、わざと大きな声で言い残し、バックヤードの冷蔵庫を目指して、その場を後にした。



在庫のトレーを取りに行くほんの数分間だけでも、あの子の顔を見ないで済むと思うと気持ちが楽になる。

はぁぁぁぁぁ、もうやってらんない.......

すっかり気を抜いた状態で、バックヤードの一番奥にある冷蔵庫の扉を開けたら、後ろから来た誰かにいきなり腕を掴まれ、中に引っ張り込まれた。



え? 嘘? ちょっと、誰?

驚いて振り向くと、私を追いかけて走って来たのか、息を切らしながら、彼が内側からガチャッと冷蔵庫の重い扉を閉めている。



「重いだろうから手伝って来るって言って、来ちゃった。」

「え? そうなの? あの子、一人で大丈夫?」

「だってさぁ.....。」



彼が後ろ側から緩く私を抱きしめて、肩にちょこんと頭を乗せた。

わっ、こら!! 何してるの!?

中からカギはかけられないんだから、今、外から扉を開けられたらどうするのよ!?



「ダメ。ここじゃ。」

「いいじゃん、誰も来ないよ。」