少しずつ、見えるミライ

そのために、私は頑張った。

世間から評価されているそれなりの学校を出て、それなりの会社に入る。

そこで、そこそこの男を捕まえて、ごく平凡で幸せな家庭を作る。

人生にスパイスなんていらない。

無難が一番。普通が最高。

そんな夢を描いて、奨学金で中堅の女子大に通い、経営の安定した銀行に入行した。



せっかく入れた理想的な企業だ。

一般職か専門職かなんて、どうでも良かった。

やりがいなんてなくても、お給料がもらえてクビにならなければそれでいいし、結婚相手が見つかったら、すぐ辞めればいい。

その程度の志しかないのだから、あまり良い行員とは言えないかもしれないけど、とりあえずは文句も言わず、真面目に勤務を続けた。

すると、ある日、別の支店から異動して来た噂のイケメンに、なぜか交際を申し込まれた。



それが旦那になった修ちゃん。

とにかく嬉しかった。

夢みたいだった。



修ちゃんは、私の望んでいたスペックをすべて持っている。

しかも、カッコ良くて、優しくて、欠点なんて何もない。

この人といれば、私がずっと望んでいた安定した未来が確実に手に入る。

そう信じて、決して疑わなかった。



なのに、裏切られた。

信じて来た理想をすべて叶えたはずの結婚は、私に幸せをもたらしてはくれなかった。



だから、そこからの転落はかなり堪えた。

結婚退職後、暇を持て余して始めたデパ地下のパートを辞めず に続けたのは、その辛さを紛らわすためもある。