母。《海より深い愛》、そんな言葉は存じない。
父親の背中、母親の温もり。

ふざけ合う友達、泣き合う仲間、温かい夕食。
今のテレビ コタツの上の醤油せんべい。将来の夢。大切な恋人。

俺は持つことさえ、抱いたことさえ、願うことさえ禁じられた
鳩羽色に染まった、森で死んだ独人である。覚えているのは森の中の母の後姿のみ。もはや前世の記憶だ。


友達は他の奴らに比べれば少ない。
女に困ったことはないが、恋人がいたことがない。
女を抱いたことはあるが、愛を囁いたことはない。

大空学園に入ってから《愛情》という言葉を聞かされては育った。
なのに女を抱いた後には、《あなたって誰かを好きになったことないでしょ》と、まるで台本を棒読みしてるかのように女たちは口にする。