食事が終わった私と娘は、りんごジュースを飲んでいた。


 会話がない。


 娘はゆっくりと、ストローで液体を吸い上げている。

 私と話すのを、拒絶しているのかもしれない。

「………愛深」

 それでも、名前を紡いだ。

「ん~?」

 存外、娘は素直にストローから口をはなし、私を見た。

「…保育園、楽しい?」

「うん、楽しいよ」

「……そう……」

「どうして?」

「…愛深の先生がね、愛深は保育園で遊んでても楽しそうじゃないって。お家でも、楽しそうじゃないしさ……」

 思わず本音を言ってしまった。私は口をふさぐ。

 娘は、少し考えこんだ。

「……ママが、楽しそうじゃないから」

「え?」

「ママが、楽しそうじゃないから…ツグも、楽しくない…ママ、お料理してる時も楽しそうじゃなかった…だから、ツグも楽しいの、我慢した…」

 私は、娘を抱きしめていた。


 あぁ──そうか。

 笑わなくなっていたのは、表情を失っていたのは、私の方だったのか。

 そんな私を、娘はずっと気づかっていてくれたのか…まだ、こんなに小さいのに…。


「…ごめんね、愛深…」

 力いっぱい抱きしめた後、私は娘を見つめ、きごちなく微笑んだ。

「…良いよ、ママは悪い事してない」

 そんな私の笑顔を見た娘の口角が、ゆっくりと、持ち上がった。


 娘の顔に、やっと、笑みが帰ってきた。