「出かけてきまーす!」
珍しく、いつもよりキチンとした格好で出て行った。
「どこへ行ったんだ?」
「さぁ。聞いてないけど、デートじゃない?」
何でもない事のように言う母親の言葉に、父親としては黙っておれず…。
「デートって……相手は誰だ!」
「知らないわ。そのうち教えてくれるでしょ」
子供じゃないんだから…と、母親は呑気に構えてる。
どうやら父親と違って、母親の方が寛大らしい。

「大きくなったら、おムコさんもらって、ずっとここに住むね」
小学校へ入るか入らないかくらいの頃だった。
そう言って親を喜ばせてくれる、優しい娘だった。
あれから年を重ね、三十を過ぎた今、一体どんな男と付き合っているのか……。

「警察官らしいわよ」
母親の一言に晩酌の手が止まった。
「今日、家に来たの。あなたが帰る三十分位前。交番勤務してるらしいわ。感じのいい、礼儀正しい人だったわよ」
美緒にしては、意外な相手だと母親は言っていたけれど…。

(警察官か…)
どちらかと言うと、悪いイメージしか思い出せない。
それは以前、スピード違反で捕まったのが原因だからという訳ではないが、命を張るような仕事をしている男を、何故、娘は選んだのか…。
(気の迷いならいいが…)
できればそうであって欲しい。
親の身勝手だと笑われそうだが、一人娘が心配なんだ…。


「初めまして。小野山 亨です。よろしくお願いします」
深々と頭を下げ、こちらを真っ直ぐに見た。
母親の言っていた通り、確かに礼儀正しい好青年だ。
しかしーー…

「美緒さんとは、結婚を前提にお付き合いしております。今夜はご両親様に、きちんとご挨拶しておこうと思い、伺いました」
冷静沈着。一つも非の打ち所がない。こうなってくると、まるで人間味のない感じすらしてくる。
こんな男の一体どこを、娘は気に入ったのやら……。

「小野山君、警察官だそうだね…」
母親に聞いた話を持ち出した。
「はい。交番勤務をしております」
自負なのか、胸を張っている。
「警察官という仕事は、危険も伴うと思うが…娘を、美緒を一人にしないという自信はあるかね?」
ぐっと息を呑み、困った顔をした。
返事に詰まるということは、自信がないという証拠だ。
「これは…私の身勝手なお願いかもしれないが、美緒と結婚しようと思うなら、どうか、一人にしないでやって欲しい…。一見、気が強くてしっかりしてるから、何があっても動じない風に見えるけど、あれはあれで、案外心優しくて弱い子なんだよ……」
こっちの言葉を神妙な顔で聞いている。何処か心当たりがあるように、小さく頷いてはいた。

「……今のお話、心に留めておきます」
力のこもった返事だった。
絶対に守りますと言えない所はあるにしても、もう少し何とか言って欲しいのが、親としては本心だ。