“自慢の娘”に育ったとは思わない。
しかし、そんなに変でもない筈だ。
なのに、何故かいい相手に恵まれない。
一応二十代の前半には、それなりに付き合っていた男もいたようだったのに、“あの仕事”を始めてからは、とんと話も聞かなくなった。

「…行ってきます」
口重く出かけて行くようになったのは、三十代になってから。その顔から笑顔がなくなったのはつい最近。
「仕事が忙しいのか?」
そう聞いても、喋りたくない様子で頷くだけだった。

「美緒は大丈夫なのか?」
心配して母親に聞いた。
「大丈夫でしょ。あの子はしっかりしてるもの」
母親は強い。自分の子供を信じきってる。
けれど父親は、そんな訳にはいかない。
蝶よ花よと育ててきた娘が枯れていくのを、黙って見ている訳にはいかないのだーーー。

「美緒、仕事が辛いんなら辞めてもいいんだよ」
私の言葉に、瞳が揺れた。
涙ぐむ表情に、何処か安堵な様子すら伺えた……。

「ごめんなさい……仕事辞めました…」
ある日の夕食後、そう言って頭を下げた。
「…長いことよく頑張ったね。ゆっくり休みなさい…」
疲れきった顔に、親としては労いの言葉以外、適当なものが見つからなかった。


「イメージチェンジらしいわよ」
娘の変わりようを、ポカンと見てたからだろう。
母親がボソッと囁いた。
張りつめていた糸が弛んだように、娘は最近、今までしなかった事にチャレンジするようになった。

(随分変わったな…)
隣に住む従兄弟と一緒に、旅行へ行くと言う娘の格好を見て思った。
考えてみればこの十年余り、大しておしゃれをする訳でもなく、懸命に仕事に取り組んできたのだから、反動が出ても仕方ない。
(このまま、変な男に引っ掛からなければいいのだが…)
男親としては、それだけが心配の種だった…。