「たまこ!次はあれだ、あのグルグルしてるやつだ!」


掴まれている手のせいで、グイグイ引っ張られる。腕が抜ける。やめてくれ。
おまけに歩く速度も速いから、胃がひっくり返りそうだ。足も痛い。
クソガキは次のアトラクションにしか興味がない。それに、イラっとする。



「......もう乗り方もわかるでしょ?1人で行ってきな。」
怪訝そうに振り返ったクソガキの胸に自分の分の乗り物チケットを押し付ける。
「ほら、これも持っていきな。私はあのベンチで待ってるから。」

掴まれてる腕を解いて、さっさとベンチに向かう。なんでこんなに苛立ってるんだ、私は。
クソガキが自己中なのが悪い。そうだ、私は悪くない。

「おいっ!たまーーーーっ‼︎」
「あの!お兄さん1人なら私たちと一緒に回りませんかぁ?」
「ちょっと!この方と一緒に行くのは私達よ⁉︎」

チラリと後ろを振り返れば、あっという間に人だかりができていた。私という邪魔者がいなくなるのを虎視眈々と狙っていたギャラリーだろう。すでにクソガキの姿は見えない。


さすがに可哀想だったか?
でも私も限界。社会人の体力不足舐めんなよ。

どさりとベンチに雪崩れ込むように座れば、疲労が一気に押し寄せた。
「あー、疲れた。」
乗り物と人に酔って気分は最悪、足を見れば靴擦れをおこしている。
やたらクソガキが速く歩くから悪い。人に合わせることを知らんのか。


重たい頭を持ち上げて周りをゆっくり確認すれば、クソガキとギャラリーはどこかに行ったようだ。
それにまたイラっとして、周りを見るんじゃなかったと後悔した。






「おねーさん大丈夫ー?気分悪いの?」
「あ”?」

ベンチに身を預けて少しすると、軽い男の声がした。
伏せていた顔を無理やりあげる。
それでさえこっちには重労働なんだよ。空気読めんチャラ男には天誅じゃ!

「うっわ、マジで怖えよこのお姉さん!そんなふうに睨まないでよー、さ⚪︎こみたいでうけるんだけど!」
ぎゃははは、と品のない複数の笑いに取り囲まれている。
...3人か、こんな時に。
「なあ、どこか悪いんだったら俺らが休めるところに連れてってやるよ!」
「そおそお、こんな所でおねーさんみたいな人が1人でいたらわるーい人に襲われちゃうよ?」
「って感じだからさ!俺らと一緒に来るの決定ー‼︎」
「ちょ、やめてよ」
がしっと肩を掴まれて無理やり立たせようとしてくるのを、必死に拒む。
だいたいそのわるーい人ってどう考えてもお前らだろうがっ!
いつもならこんな奴ら簡単にあしらえるのに。今は間が悪すぎる。しかも男3人に女1人はどう考えても分が悪すぎる。


「やだなぁ、お姉さん。何にもしないからおいでよ!......ね?」
「嫌だって言ってんでしょうが!離して!」

抵抗も虚しく、引きづられる。

「はいはい、大人しくしろよ?」
「このっ....!」
「たまこっ!」


え?と動きを止めた瞬間に私を囲んでいた男達が一瞬で消えーーー否、少し離れた地面に呻きながら這いつくばっていた。


「大丈夫か⁉︎」
「は?」


次に視界に広がったのは、なぜかあちこちぼろっとヨレっとなったクソガキだった。