「未月(ミツキ)ー!
ねぇ、起きてる?!ねぇー!」


起きてる。


正確には5分前から。



「未月!」

「起きてる!
起きてる起きてる起きてる!」


母とのこの会話はもう毎日のこと。


私は馴れた手つきでヘアアイロンに電源を入れ、クローゼットから制服を取り出した。


制服に着替え終わるとピピッと小さな音を鳴らしてヘアアイロンが温かくなったことを伝えてくれる。



ベタつかず、洗い流さないトリートメントを髪に薄く付けてからヘアアイロンで髪をストレートにしていく。


時間がなくても、自慢のダークブラウンの髪の毛だけは毎日綺麗にする。

それは高校生になった時に決めたこと。



「未月ー!」


起きてる、と返事したあとのこの声は、私が家を出る5分前になったことを告げる合図のようなもの。


その合図を聞いて、バタバタと階段を下りていく。




「おはよう、未月」

「おはようパパママいってきます」



毎朝恒例の棒読みな会話をしたあと、私は家を飛び出した。



(やっっっっばい!
いつもより2分遅れてる~!)


成績優秀な私に足りないものはきっと、"容姿端麗"と"スポーツ万能"。

それさえあれば、この世は何か変わっていたのかもしれない。



「晴ちゃん待たせてごめんね!」


家を出て一つ目の角を曲がったところでいつも待っててくれる人。


晴馬 (ハルマ)


性別は男。




そして…………



私の好きな人。



晴ちゃんは私に一切恋愛感情はなく、つい最近残念なことに「おまえと出会って初めて男女の友情を知った」と言われた。


もう、笑うしかなかったけど。



「ん、行くぞー」


元々中学の時からの友達で、
偶然高校も一緒になって最初は確か、偶然ここで晴ちゃんに会って
いつからかは忘れたが、いつのまにかこの時間、この場所で待っててくれるようになった。


一緒に通学するようになって、色んな話をするたびにどんどん惹かれていった。



「イエッサー!」

「ほんと、色気ねぇわお前」

「え?なに、私の裸見たいの?」

「多分見たら俺謎の嘔吐繰り返すわ」



こんな感じで、私の恋はまだまだ実りそうもありません。