「おっ……おなか減ったねー! もう21時まわってるよ~」
葵衣からぱっと手を離し、あたしはあわてて靴を脱いだ。
葵衣の髪、すごくさらさらだった。
まったく痛んでなかったし、一度も染めたことないみたいだ。
なんだか懐かしさを感じた手に、少し疑問を持ちながらも、リビングのドアを開けた。
「それにしても、切ったの利き手じゃなくてほんとよかったよね!
右手だったら、勉強はともかく家事ができないし」
笑って言いながら、リビングに入ろうとしたとき。
「わっ……」
――ふいにうしろから、葵衣の腕に抱き寄せられた。
どきっ、と大きく心臓がジャンプする。
優しく包むような腕に、いっきに体温があがるのを感じた。
「家事なんかしなくていい。俺が全部する」
「そ、そんなの悪いよ」
「たのむから、言うこと聞いて。紫乃はいろいろ……無理しすぎ」
葵衣はあたしの首元に顔をうずめて、ため息まじりにつぶやいた。
……無理なんて、してるつもりないのに。
まだ電気のついていないリビング。
視界が暗いからか、みょうにうしろを意識してしまう。
「ちょっとは……俺に甘えて」

