顔を上げると、


数メートル先に、肩で息をする葵衣の姿があった。




「……っ」




葵衣を視界に入れたとたんに、安心感からいっきに肩の力が抜けた。


あやうく持っていたスマホが、手からすべり落ちるところだった。



葵衣のスマホとずっとつながっていた、

あたしのスマホが。



葵衣は息を乱したまま、銀髪の人をするどい瞳でにらみつけた。




「っ、ざけんなっ……。俺は外見なんかで、紫乃を好きになったんじゃない!」




どっ……

どこに怒ってるのっ。



銀髪の人の“メンクイ”という言葉をスマホ越しに聞いていたらしく、険しい表情でそれを否定する葵衣。



びっくりしたけど、なんだかちょっとおかしくて。

こんな状況なのに、少しだけ、頬がゆるんでしまった。