……そんなこと、言えるはずもなくて。


「あの時、バタバタしてたから、殆ど見てなくて……ごめん」


必死に、普通の声を出せるように神経を注ぐ。


「そりゃそうだよね!大忙しの看板娘だもんね、いちいちお客の顔なんて覚えてるわけないかぁ」


ハハハと藤浦さんが笑う。


そんなわけないじゃんか。


ただのお客じゃない、藤浦さんのことを分からない訳がない。


痛いくらい脳裏に焼き付いてるよ、オオカミ男と微笑み合う藤浦さんの姿。


……言えねーっつの。


俺は、シャツの裾を強く握りしめていた。