不器用な彼と

勇気Side


「つーいた」


人のあまりいない海岸。
…良いところだと思った。
てっきり、都会に連れてかれて人と触れ合わせるのかと思ってたのに。


いや、待てよ?

健人くんは俺が女性が嫌いなのを知らない。つか誰も知らない。


健人くんには何でもお見通しなんだろうか。
「ん?どした、勇気?」なんて俺を見ているけど、本当はいま俺が考えてることも分かってるんだろうか。


「なんでも、ないよ」


首を振ると、「そう。じゃ、朝ご飯」と健人くんは歩き出す。


「いらないよ。いつも食べないもん」


「俺が見てる限り昼も夜も言うほど食ってねえけどな。ほら、着いた」


ちょっとだけ歩いて着いたところ。


看板の…べーぐる?べーぐるってなんだ?


ちょっとおしゃれな感じの店内。お店に入るのも外食するのも久々だ。


「プレーンとレモン一つずつ」


勝手にオーダーしてスマホをいじり出す健人くんはやっぱり何を考えてるか読めない。


俺もスマホの漢検アプリで勉強してたら、オーダーしたものが運ばれて来た。


健「よし。はい、勇気の」


白っぽいのと黄色っぽいのと半分ずつ。健人くんの手で雑にちぎられたドーナツみたいなこれがベーグルなのか。


「食欲ないしお金ないし」

「おごり」

「食欲ない」

「残さないのはマナーだよ」

「健人くんのバーカ。勝手に頼んだくせに」

「まあまあ。騙されたと思って」

「…」

健人くんを睨んでから、一口だけ口に入れる。


「おいしい…」

「おいしいっしょ」

健人くんのニヤリとした勝ち誇った笑顔。

俺もニヤリと不敵に笑い返してやった。