「綾瀬くーん、私の名前知ってる?」
と、他のクラスの女子が10人ほど教室に入ってきた。
なんと、この「綾瀬くん私の名前知ってる?運動」は他クラスにまで広まってるらしい。
ゆうちゃんは頬杖をついたまま、その子たちをみて首を振る。
ゆうちゃんの上目遣いに、みんなが目を泳がせたりにやけたりするのが目に見えてわかる。
ゆうちゃんって、こんな時どんな感情なんだろう。
全員が自分を好きだって、分かりきってる時。
ゆうちゃんは頬杖をやめて、椅子の背もたれにもたれかかった。
椅子がギシッと音を立てる。
「私、とうこです!」
「とうこ」
「私はあまね!」
「あまね」
「はづきです!」
「はづき」
「るい!!」
「るい!!」
ゆうちゃんは律儀にひとりひとりの名前を言っていく。
るいちゃんに関しては、!!まで真似て、みんなが笑う。
そういう、変に意地を張って事を荒立てないというか、場をまるく納めようとするゆうちゃんの優しさに私は、微笑ましくなる。
親心だ。

