「美奈。」
私の名前を耳元で囁いた先生のいつもの優しい低音ボイス。
「初めて、先生に名前で呼ばれた…」
そう感激しながら呟く私。
「フッ…初めてじゃないだろう?」
「え?」
聞き返す私を抱き締めた腕から解放した先生はそのまま、ベットへ座った。
同じベットに座っていても、見下ろされる形の私。
近い距離で見下ろされ、ドキドキが止まらなくなってきた。。
「今日は言わないのか?俺にいつもの…」
「いつもの…?」
「聞かせてくれたら、
昨日の夜、俺が言ったことも教えてあげる。」
え?先生、私に何か言った?
「いつもいつも、呆れるくらい聞いたんだけどなぁ。」
「わ、分かりますよっ、もう。
って、呆れてたんですか?」
「さぁ…どうでしょう?」
むぅ。。
からかってるぅ。。
「ほら、早く。」
言葉とは反対にゆったりと催促する先生。
そんな先生を上目で見つめながら、先生が言ういつもの奴なのか分からないけど…
私がいつも先生を見て、思うこと…伝えたいこと…
「先生、好きです。」
好き。好き。好き。
ずーっと、ずーっと、好きです。
10歳のあの診察室で初めて先生を見た時から、
ずーっと変わらず、好きです。
優しい低音ボイスも。
耳の遠いお婆ちゃんに耳元でゆっくり話しかけてあげる優しい所も。
小さい子が注射で泣かなかった時のあの頭をなでなでしてあげる所も。
はいはい。って、適当に受け流す時の横顔も。
全部全部、大好きです。
「はいはい。」
「やっぱり、いつもと一緒………」
自分から聞かせろと言っておきながら、結局はいはい。といつもの返事に不満を言いかけた…
「美奈、俺も好きだ。」
優しい柔らかい笑顔と共に先生は私にそう言った。
あれ…
何だかこの感じ、記憶にあるような…
「せんせ…が、私、すき?」
「フッ…昨日の夜も、言っただろう?」
「え、えぇ~~!!??」
「まぁ、仕方ないか、熱もあって意識も朦朧としてたしな。」
えぇ。。
私は何て勿体無いことをしてしまったの。
念願の先生の『好き』が、聞けたというのに。
1回分、損しました。



