「可奈お姉ちゃん…?」

いつも優しかった彼女を思い出し、急に目頭が熱くなる。

すると、ベッドの上の自分の目から、一筋の涙が零れた。

悲しそうに彼女は手を振る。

ところが、天人は可奈にも手を差し延べてきた。

「あぁ…。」

突然の事に驚いた顔をしたが、やがて嬉しさの為、可奈は涙した。

「君が…。優ちゃんが私を思い出してくれた…。ありがとう…。やっと親元に行ける…。」

横を擦り抜け、可奈も天人達に導かれていく。

途中、二人の天人に抱き着くと、可奈はその二人と共に一度振り返り、会釈した。

楽しそうに光に消えて行く三人。

多分、年老いて亡くなった両親だったのだろう。

亡くなっても電車でさ迷い続ける残酷さから彼女はようやく解放されたのだ。

彼女の心残りは、身内以外の誰かに自分を思い出して欲しかったらしい。

「本当によかった…。」

見えなくなった可奈達をいつまでも追いながら、心からそう思った。


あらためて、自分もホームに降り立ち、呼んでいる天人のところへ向かう。

すると、思いもかけない事が起こった。

映像として見えていた自分に、白い布が被せられてしまった。

途端、映像はパッと消えてしまう。

天人は溜め息をつくと、こう言った。

「あの電車にまた乗って下さい。」

驚いている自分に、畳み掛けるようにまた、天人は言った。

「このまま上に連れていけません。ですから、あの電車に乗り直して下さい。」

その時の天人の顔はとても冷たかった。

再び、あの老人達の乗っている車両に戻される。

老人は空いてる自分の隣の席に座るよう促した。

呆然としている自分は何が何だかわからない。

わかる事は、すでに自分は死んでいるという事だ


「貴方、自ら命を絶ちましたね?」

老人に言われ、顔をあげる。

「自殺はもっとも最悪な罪とされている。地獄に堕ちる事も、天に上がる事も出来ない。この電車と共に、他人の魂の行く末を見続けなければならない。私のようにね。」

そう言うと、老人は自分のカッターシャツの襟首を引っ張って見せた。

生々しい食い込んだローブの跡の首筋が見えた。

再び電車は扉が閉まり、ゆっくり動き出した。