白いワンピースを着た、長い髪の女が入って来た。

かなりの美人でどこかで見た事がある女だったが、どうも思い出せない。

幸運にもその美人は、自分の隣に座った。

「何処かで、お会いしましたっけ?」

周りの連中と同じように青白い顔をしてはいたが、鼻筋の通った綺麗な女だった。

だからと言って、即行、口説きにかかるのは、あまりにも節操ない。
しかも、わざとらしい声の掛け方が我ながら情けない。

彼女もびっくりしたようで、じっとこちらを見つめるばかりだった。

「あ、嫌…、お会いしたことはなかったですよね〜。」

何を馬鹿な事を言ってるんだと、恥ずかしさ倍増だ。

「いいえ…お会いしてると思います…。」

か細い声だった。

が、その答えにちょっとスケベ心をくすぐられた自分が浅ましい。

「待って〜。う〜ん。こないだのスッチー〜じゃないよなあ…。お名前聞いていいかなあ?」

彼女に話し掛けた時、再び異様な視線と悪寒が走る。

「?!」

思わず、立ち上がって周囲を睨み据える。

自分達の会話や行動を、周囲の乗客は逐一観察しているらしい。

しかし、こちらが構えて視線を向けると、皆一様に視線を外す。

かなりムカつく事だが、一つ気になる事がある。

満席に近いくらいの乗客がいるはずなのに、車内のこの静けさはなんだ。

よく見れば、真夜中の電車だというのに、老人や子供まで乗っている。

しかも、眠るわけでもなく、まるで蝋人形のように皆一様に、大人しく乗っている。

寒気がするのは、よく効いている車内冷房だけのせいではないような気がする。

「優ちゃん…。佐藤優一くんでしょう…?」

綺麗な瞳で自分を見上げる彼女がそう言った。

「おかしいなあ。貴女みたいな美人が知り合いなら、絶対忘れないんだけどなあ…。」

周りを警戒しながら、再び座席に腰を下ろす。

「可奈よ。清水可奈。小さい時だから…。忘れてるのは無理もないわ…。」

それでも思い出せない自分がいる。

「次の駅着いたら、どうするの?終電だから、乗り換えももうないと、思うけど…。」

ところが彼女は首を振りながら静かに言った。

「終点はないの…。」

「え?何を言ってるの…?」