この時間なのに乗客は多く、座席は満席に近い。

身体が疲れていたので、空いている座席に、腰を下ろした。

やがて、プシュ〜っとドアが閉まると、外の駅員の笛が響く。

ゆっくり、走り出した時、また睡魔に襲われ始めていた。

ホームの灯りが発車と同時に落ちたような気がしたが、気にせずそのまま、また眠りはじめた。

しばらくして、ふと、何やら視線と悪寒を感じるので、薄目を開けてみた。
その瞬間の異様な光景に思わずギョッとした。

周りにいた乗客全員が、覗き込むように、自分をじっと見ていたのだった。

本人が気がついた途端、何事もなかったかのように、皆、視線を外した。

一様に皆、なんだか白い顔をしていて、あまり表情がない。

そういえば、車内の明かりも暗く感じる。

顔を二、三度両手で叩き、上着のポケットから携帯を取り出した。

「?圏外?!」

車窓を思わず見ると、真っ暗である。

どうやら、トンネルの中のようだ。

また、寝過ごしてしまったらしい。

利用している私鉄は、山を貫いたトンネルを抜けたすぐの駅が、終点だからだ。

「まったく、何をしてるんだか?!」

自分自身に腹を立ててもしかたない事だが、なんだか情けない。

トンネルを抜けるのを待って、終点で降りるしかない。

タクシーでの山越えは、一体料金がいくらになるのか見当がつかない。

そんな事を考えながら、ぼーっと真っ暗なトンネルを眺めていると、車両間のドアがシューと開いた。