ある街に風変わりな
絵描きが住んでいました。

絵描きはいつも絵の事ばかり考え、
1日の大半は絵を描く事だけに集中して、
食事もろくに取らない程でした。

絵描きの描く絵には
心があり、命があり、
必ず白いワンピースの少女が
描かれていました。

その作品の何れもが貴族からも
贔屓にされる程のモノでしたが、
絵描きはどれ程評価されても
満たされる事はありませんでした。

「違う。違う、そうじゃない。
そうじゃないんだ」

そう言って絵描きはますます
アトリエに籠るようになって
ある日、画商が
アトリエを訪ねた時の事。

「やぁ、調子はどうだい?
いい作品は描けそうかい?」

その問いに絵描きは筆を止めましたが、
振り返る事はなく、頭を少し上に傾け、
寂しそうな声で答えました。

「少女がいなくなってしまったんだ。
どんなに彼女の絵を描いてみても、
夜が来て、朝が来ると、
彼女はいなくなってしまう。
もう夢で会う事もない」

その言葉に画商は、
深い溜め息を吐いて、
また来るよと言い残し
アトリエを出ていきました。

後日、画商がアトリエを訪ねると
そこに絵描きは居らず、
適当な画用紙に書かれた
画商宛の手紙が机の上に
置かれていました。

『突然姿を消してすまない。
私は彼女を探しに暫く
アトリエを留守にするよ。
作品なら奥の作業場にある。
最後まで迷惑をかけるが
よろしく頼むよ』

画商は手紙を読み終え
作業場に向かうとそこには
先も見えない一本道を歩く
絵描きの姿が絵の中にありました。