ピリピリした雰囲気の原因である期末テストが終わると、次は嬉しい夏休みに流れ込む。

期末テスト最終日。

ようやく全教科のテストを終え、久しぶりの部活に参加した。


「数学落とした…絶対追試だよ、アレ……」

美術室に入ると、苗が教室の隅でうなだれていた。
同様に南も理科がヤバい、と唸っている。

空気が不味いな…。

「苗…、アンタ前回も『化学落とした』とか言って泣きわめいてたよね?」
一緒にいた郁那が、そう言いながら苗に近付く。
「で、何点だったっけ?」
「……92」
「うざっ。だから今回も大丈夫だって。」
92点で泣きわめくのか。
じゃあ私はどうなんの。

あたしは溜め息を吐きながら苗を立たせた。

「南、あんたは…え~っと…」
苗と同じ様に南も慰めようとした郁那の動きが止まる。
「…ゴメン、どんまい。大丈夫だって。」
慰めの言葉が見つからず、結局南の落ち込み様が増しただけだった。

その光景にあたしは少し笑ってしまったが、南の肩を叩き、席に着かせた。


「あ、てか!もうすぐ夏休みだよね!!」
杏奈が焦るように、明るい話題に切り換えた。
「あ~、早いねぇ…。」
南は机に伏せたまま、しみじみと呟く。
窓から外を見れば、太陽が照り付け、見ているだけで暑苦しい。
冷房が効いている美術室は、天国だ。

『こんな日も、野球部は外で練習してるんだろうな…。』
あえてグラウンドは見ずに、そんなことを思う。

「さき、希咲!!聞けぇ!!」
「…あ…ごめん。」
自分が色々考えている間に、郁那たちの話は進んでいたようだ。
目の前で郁那が眉間に皺を寄せている。
「希咲は、行く?」
「へ、どこに?」
「隣町。映画とか買い物とか。」
「行く~♪塾あるかもだけど。」

あ…



塾………



ていうか…自分は…




夏休みでも戸谷君に会える…。





これって、特権…?






皆は会えないのに、自分は会える。





チャンス…だ。





自分にだけ訪れる






チャンス……。