中学生になってからの塾の時間帯は、8時から10時までと、結構遅い。

そして7時半、希咲は真っ白なニットワンピースを着て家を出た。

5月の気温は暖かみが感じられ、たまに吹く風が少し冷たくて気持ち良い。

人通りの少ない裏道に響く自分の足音を聞きながら、たまにリズムを刻んでみる。


最後の一歩、塾の前に着くのと同時に漏れる溜め息。


微かな希望を胸に、教室に足を運ぶ。


「こんばんは~…」


ゆっくりとドアを開けると、真っ黒なジャージに身を包んだ戸谷君が、ホワイトボードの前に立っていた。



ジャージ姿もカッコいい…


戸谷君を見るなり、気が緩む。
同時に先程とは別の緊張感を感じ、肩があがる。
そのせいで凝視することもチラチラと見ることも出来ず、あたしは机に伏せた。





結局今日も話せず終いかもしれない。


姿を見て、舞い上がって。それでおしまい…?



また…いつも通り…?



「こんばんは、二人共来てるわね。」
先生が教室に入って来たので、戸谷君はホワイトボードから離れ、席に着いた。
「あら、皐君ジャージ?初めて見るわね。運動してたの?」
先生は戸谷君の黒いジャージを見ながら聞く。
「ジョギング…。」
戸谷君が呟く様に答えると、先生は「偉いわねぇ。」と感心した様に首をふった。

「あ、先生先生。」
そこで何気無いことに気付き、先生を呼んだ。
当然、隣の戸谷君も反応する。
「戸谷君の服真っ黒で、あたしの服真っ白だから…正反対ですね。」
なんとなく思ったことを、そのまま口に出しただけなんだけど。
でもそこがツボだったのか。

先生と戸谷君はあたしの言葉に笑いだした。