「うそぉ……」
トイレのドアに凭れながらしゃがみ込み、頭を抱える。そして同時に、自分に対する甘さに嫌気が差す。
普通に考えて、戸谷君が大切な子と既に再会してたり、新しく好きな子が出来たとしてもおかしくは無くて。
ましてや最近話す事も無くなったのに、入学して2ヵ月たった今でも、小学生からの付き合いという理由だけで、自分を特別な目で見ていてくれていることもありえなくて。
そんな不揃いな条件の中で距離を置き続けるのは、希望を無くすも同然で。
そんな自分に比べれば
積極的にアタックしている同じクラスの子達の方が
戸谷君に近いに決まってる。
「とりあえず…何か話さなきゃ……」
あんなにかっこよくて
あんなに笑顔が綺麗で
あんなに優秀なのに
周りがほっとく訳が無い…。
とりあえず今日の塾で
頑張ってみよう…。
…………
と言っても。
一体何を頑張って、一体どんな話題を持ち掛ければ良いのか。
学校の話?
いや、クラスが違うから話を合わせる自信が無い。
戸谷君の好きな…野球の話?
…それは自分がイマイチよく知らない。
大切な子の事…
流石にしつこいか。
「…会話でこんなに悩んだ事あったっけ……」
話しかける度にドキドキして
笑って欲しいから努力して
距離を感じては胸が締め付けられる感じに襲われる。
『こんなにも好きなんだなぁ…』
そう思っては溜め息が漏れる。
一人で気持ちを走らせる自分が馬鹿みたいに思える時もあれば
何でさっき…と気持ちを出さなかった事に後悔してしまう時もある。
恋は自分を見失わせる……。

