早くバスの扉が開けば良いのに。



心に絡み付く様な質問ばかりしてくる滑川君が







怖い。










プシュー…




ようやくバスが開いた。

汗を握った手を開き、息を吐く。

「あ、帰る?」

滑川君が少し近付いてきたので、あたしはその時初めてコノヒトの顔を間近で見た。


口調に似合わず、無邪気な顔をしている。

顔を見て話すと、怖くも何とも無い。

あたしは胸を撫で下ろした。

「かえる…。」

そう言って、バスに向かって歩く。

「じゃあな!!」

振り向くと、滑川君は笑って手を振っていた。



あ……

球技大会の、あの感覚。


空気が変わる。


滑川君の笑顔で。



「…ばいばい」



あたしも手を振り返した。

よく考えれば、質問からして滑川君は戸谷君の大切な子を知らない。

あたしが戸谷君を好きなのも知らない。

何も知らない、戸谷君の友達。

(…何に怯えてたんだろ。)


野良猫に話しかける滑川君を窓から見ながら、思う。


あたしは、その光景に思わず吹き出してしまった。


(かわいいな…。)




もう滑川君に対する恐れは無くなっていた。





あの笑顔のお陰で。