君色-それぞれの翼-


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山中公園までの道程は、ありえなかった。
その名のとおり、山の中。
最初は楽しく話をしながら歩いていても、坂になると話をする余裕が無くなっていく。これからがメインだというのに、もう皆力尽きている。
持ってきていたお茶が、半分しか残っていない。
唸っていても仕方無いので、とりあえず着替えて体育館に移動した。







準備運動が終わると試合はすぐに始まった。
「何であんなに元気なのよ…」
試合をしているチームを見つめながら、隣にいた郁那がぼやいた。
「同感…」
立っていると足がだるいので、郁那と南と一緒に、二階のギャラリーに移ることにした。
ローファーで沢山歩いたのが悪かったのか、足の小指がズキズキする。
競技はドッジボール。
ボールを避ける時、足はどうしても必要になってくる。
あたしはギャラリーの一席に座ると、靴を脱いだ。


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「隣良い?」
郁那と南の会話の途中、後ろから声がした。
「松井さん!と、三浦さん?」
「やだなぁ、呼び捨てで良いよ、下の名前で呼んで。」
急に現れた苗が手をひらひらとふりながら笑う。
とにかく良く笑う子だ。


苗が柵から身を乗り出したので、あたしも下で行われている試合を見る。
丁度、男子グループ同士の試合だった。
そして戸谷君を見つけ、少し肩を落とす。
また昨日の急に教室に入ってきたアイツと一緒にいる。
しかもコートの隅にずっと立っている。
悲しい事に外野は、動こうとしない二人の存在に気付かない。
「何見てんの?」
隣にいた苗が聞いてくる。あたしはドキッとして戸谷君から視線を逸らした。
「識見てたの?」
「へ?識?」
「アイツ。」
苗は特に表情も変えずに、戸谷君の隣にいるアイツを指差した。



だからその隣だってば…。

「いやいや…」
「じゃあ、戸谷君?」
背筋が凍るような感覚があたしを襲う。
「いや、違うよ!」
バレたくなくて、必死に首を振って誤魔化す。
「そっかぁ~。」
苗はまたニコッと笑った。
心が少し重くなる。