「始めっ。」
先生の声とチャイムが重なる。
いよいよ試験が始まった。


カリカリ、と鉛筆を走らせる音が教室に広がる。


50分のテスト時間なんて、どんどん過ぎて行く。





国語はAもBもまぁまぁの出来。


算数は…Bはかなり自信アリ。でもAが不安だ。


とりあえず全部の平均点にかけるしかない。




『受かるって。』
問題が解けなくて諦めかけた時、その言葉を思い出しては頑張った。


戸谷君の力は凄い。


何気ない一言が、自分の心を変えてくれる。


午前中最後のチャイムが響いた時、あたしは息を吐いて大きく伸びをした。



受付で貰った案内に従い、昼食をとる為に、視聴覚室へ向かった。




広い視聴覚室の最後列の窓側に、戸谷君の姿があった。


「隣良い?」
あたしが近付くと、戸谷君は何も言わずに荷物を除け、席を空けてくれた。
「調子どう?」
聞くと、戸谷君は少し首を傾げた。
「……普通。お前は。」
聞き返されたあたした、戸谷君と同じ様に首を傾げ、苦笑した。
「算数Aがあんまり…かな。」
そう言うと、戸谷君は同情してくれたかの様に、あぁ、と少し頷いた。


周りを見渡すと、秀才っぽい人も沢山いれば、やる気の無さそうな…、戸谷君のような人もいる。

色んな人を見ていると、不思議と頑張ろう、という気になってくるものだ。




そんな中戸谷君は窓からずっと外を見ている。

何を見ているのだろうか。あたしも視線を外に移す。



見えたものは、野球部の練習…。



戸谷君はそれを食い入るように見ていた。

その目はいつもとは比べ物にならないくらい真剣で



輝いていて。





あたしはそんな戸谷君をジッと見つめていた。










ちなみに、戸谷君のお弁当の中には、苺が入っていた。