嬉しい……
もう、何もいらないと思えてくるぐらいに嬉しい。
でも……
「わ、わたし、は、身分なんて何もない、ただの庭師です……」
シリル様には、釣り合っていない。
その事実が鋭く胸に突き刺さる。
「教養も、知性も、家柄も、何一つない……
他の姫君より優れているところなんて、何もありません」
ポロ、と何かが頬を伝う。
あぁ、わたし、泣いているのね。
嬉しいのに、悲しくて。
だって他に相応しい人はたくさんいるのに。
アレン様やシェイリー様だって、他の姫君たちの方がいいと思っているはずだわ。
この婚約は、この国のためのものにもなるのに。
なのに、わたしと婚約してしまえば、この国にはなんの利益もなくなってしまう。
「そんなことはない。
私は知っている。貴女が誰よりも美しい心を持っていることを」
ハッとして見ると、シリル様は優しく微笑んでいた。
「貴女はいつも私の心を癒してくれた。
王子という立場に疲れていた私の心を、優しく包んでくれた。
他とは違う、本当の優しさを持っている。
身分や家柄は関係ない。私は、貴女の心が聞きたい」
「わたしの、心……」
言っても、いいの?
貴方に、伝えてもいいの…?
わたしなんかで、本当にいいの……?
「私は、貴女がいい」
繋がったお互いの手から、温かいものが流れてくる。
「わたしも……」
ほんの少しだけ、手に力を入れる。
伏せた目をしっかりとシリル様に向けて。
「わたしも、貴方が好きです……愛しています」
そう伝えたとき、シリル様は本当に幸せそうな笑顔を浮かべた。
自然とわたしの頬も綻ぶ。
ゆっくりと立ち上がったシリル様は、わたしの指に綺麗な石のついた指輪をはめた。
「これでやっと、ローズは私のものだな」
恥ずかしさを感じながらもわたしも小さく、はい、と答えた。


