「あぁ、いや大丈夫」
「本当ですか?
ご気分が優れないようなら…」
「本当に大丈夫。ちょっと君の笑顔に酔ってしまっただけだから」
…………今幻聴が聞こえたわ。
お酒は飲んでいないのだけれど……わたしも雰囲気に酔ってしまったのかしら。
「でも無理はなさらないで下さいね」
本人が大丈夫と言っているし、ちょっと心配だけれどいいわよね。
キール様はすぐに離れるかと思ったけれど、なぜかずっとわたしのそばにいて。
こんな人と一緒にいたら心臓に穴があいてしまいそう。
そんな失礼なことは言えないけれど。
「こんばんは。俺も話に混ぜてもらっても?」
「あ、はい」
な、なぜなの?
どんどん男性がわたしのもとへ……
それも身分の高い人ばかり。
な、泣いてしまいそう……
こ、これはもはや、一緒にいると言うよりも囲まれている状況に近いのではないかしら?
内心パニックになっていると、静かなざわめきがホールに広がる。
「まぁ、シリル様だわ」
「今夜もなんて麗しいの…」
「見惚れてしまうわね」
聞こえてきた声にシリル様、という名があって。
ドキン、と胸が高鳴る。
シリル様が、ここにいらっしゃる。
前にあったお茶会では、遠くから見つめているだけだったけれど。
今は……今だけは、シリル様と同じ場所に立っている。
それだけで、涙が出そうなぐらい嬉しく感じる。
「ローズどの、お飲み物はいかがですか?」
「あ、ありがとうございます」
ちょっと喉が渇いていたので、素直に差し出された飲み物に手を伸ばす。
口をつけようとグラスを運ぶとその手をやんわりと掴まれた。


