「そろそろ時間ね」
「はい……」
あぁ、心臓の音が速い。
緊張する……
深呼吸をしているとコンコン、とノックが聞こえて。
「シェイリー、準備はできたか?」
「えぇ。ローズも完璧よ」
アレン様の瞳がわたしを捕らえる。
少し目を見張ってから、ゆっくりと目元が優しく細められた。
「おぉ、ローズか。見違えたな」
「あ、ありがとうございます」
アレン様に褒められるなんて。
なんだかくすぐったい。
「当たり前よ。私がドレスを選んでローズをコーディネートしたのよ?
それに、私の娘だものね」
「そうだな」
穏やかに笑いあう二人に、胸にじん、と温かいものが広がる。
アレン様もシェイリー様も、わたしを本当の娘のように接してくれて。
感謝の言葉しか浮かばない。
今は言えないけれど、いつか二人に伝えられるかしら……
「それでは行こうか」
「えぇ、そうね」
「はい」
ふぅ、と心を落ち着けてわたしはソファから立ち上がった。
舞踏会の行われるホールに向かうまでの道のりが、とてつもなく長く感じる。
あぁ、もう心が逃げたいと叫んでいる。
「ローズ、顔が強ばってるわ。楽しまないと損よ?」
「シェイリー、無茶を言うな」
アレン様の言葉にこくこくと首を振る。
もう舞踏会で粗相をしないかどうかで頭がいっぱいだわ。
気づけばホールに繋がる扉の前にわたしは立っていて。
ごくり、と息を飲む。
この先は、わたしの知らない世界。
「さぁ、行ってらっしゃい、ローズ」
振り返ると優しい笑みを浮かべているアレン様とシェイリー様がいて。
「はい。行ってきます」
震える指先に力を入れて、わたしは扉を開いた。


