「母上、今よろしいですか?」



聞こえた声に、ドキッと心臓が音をたてた。


早くなる心臓を落ち着けるように深呼吸をする。



大丈夫……平静を装わなければ。



「いいわよ」


「失礼します」



中に入ってきたシリル様はわたしを見て少しだけ目を見開いた。


わたしは無言のまま頭を下げる。



「ではシェイリー様、わたしはこれで……」


「えぇ。縁談の話、近いうちにまた話をしましょうね」



はい、と返事をしたわたしの後ろで小さく息を飲むような気配がした。



「失礼します」



頭を下げてわたしは部屋から出た。


そのまま自分の部屋へと戻る。


その途中で後ろから足音が聞こえて。



「ローズ……っ」



ぐいっと腕を引かれた。


振り返るとそこにはシリル様がいて。


思わず、泣きたくなってしまった。



どうして……


どうして貴方は、わたしの心をこんなに掻き乱すのですか。


抑えていたはずの想いが溢れそうで、怖い。



「母上の言っていたことは、本当なのか?
ローズが縁談を受けるという……」


「……はい。シリル様も二週間後には伴侶を選び、この国を担っていきます。
だから、わたしもそろそろ身を固めようと、思って」



ぎゅっと、唇を噛み締める。


それと比例して、掴まれている手の力が少しだけ強くなった。



「シリル様、手を…離して下さい」


「っ、私は……」



切なげに眉を下げたシリル様の表情に、胸にズキンと痛みが走る。


でも……