珈琲が美味しいと評判の喫茶店なのに、珈琲を注文したことは1度もなかった詩月。


涙に濡れる郁子の頬を拭い、「追いかけてこい」と言って微笑んだ顔。


「周桜くんってメールとか、あまりしないのかしら?」


「マメに返信する奴には思えないな」


「ん……メールの返信は5回に1回がいいとこ。電話かけても、ほとんど出ないの。伝言もスルー」


「あのさ、郁。わかってるか? ウィーンと日本って時差が8時間あるんだ。例えば、こちらが午後8時なら向こうは午前4時」


郁子は頬を膨らませる。


「わかってるよ」


「あいつも、慣れない環境で色々と大変なんだろう」

「でも……」


「自分のこと、あれこれ語る奴ではないし……5回に1回でも、返信してくるならいいだろ?」


「他人事みたいに」


「まあまあ……寂しい?」