郁子は溜め息をつく。
スマホのメール送信と受信の数、その差を比べる。
そして、また溜め息。
「どうした? 浮かない顔だな」
「貢……」
横浜――カフェ·モルダウ。
山手の小高い丘、閑静な住宅街に私立聖諒学園はある。
アール·デコ様式で統一された外観の学舎、その正門正面に「モルダウ」がある。
学園の音楽科卒業生のマスターが経営する、BGMを一切かけない風変わりなカフェだ。
――追いかけてこい
郁子は、忘れられない言葉……あの日を思い出す。
「周桜か……あいつほど、沸かせる演奏をした奴はいないな。あいつが留学して、何かもの足らない」
振り向けば、そこに居そうな気がする――周桜詩月が。
「緒方」と呼ぶ掠れ気味の細い声。
端正で綺麗な、中性的な横顔。
穏やかに微笑む姿。
詩月のお気に入りは、ピアノ奏者の横顔が見える窓際の席だった。
スマホのメール送信と受信の数、その差を比べる。
そして、また溜め息。
「どうした? 浮かない顔だな」
「貢……」
横浜――カフェ·モルダウ。
山手の小高い丘、閑静な住宅街に私立聖諒学園はある。
アール·デコ様式で統一された外観の学舎、その正門正面に「モルダウ」がある。
学園の音楽科卒業生のマスターが経営する、BGMを一切かけない風変わりなカフェだ。
――追いかけてこい
郁子は、忘れられない言葉……あの日を思い出す。
「周桜か……あいつほど、沸かせる演奏をした奴はいないな。あいつが留学して、何かもの足らない」
振り向けば、そこに居そうな気がする――周桜詩月が。
「緒方」と呼ぶ掠れ気味の細い声。
端正で綺麗な、中性的な横顔。
穏やかに微笑む姿。
詩月のお気に入りは、ピアノ奏者の横顔が見える窓際の席だった。