「Bravo!!」

「Es ist eine gro・e Leistung!」


鳴り止まない拍手と歓声。

曲を弾き終えた詩月の指が痙攣している。


「まだだ……まだ敵わない……こんな演奏では、あの人には及ばない」

震える指に痛みが走る。


エィリッヒはカウンター席から、詩月の様子を見守る。

ふらりと立ち上がる詩月をミヒャエルが駆け寄り、支える。


「大丈夫か? 指は痛くないか?」

詩月の震える指を丁寧に擦る。


「……痛いのは指ではない」

詩月がか細い呟きを漏らす。


「ん、何か言ったか」


「痛いのは……胸のずっと奥だ。ショパンを弾いてわかる……まだ父には到底敵わない……」


「何を言ってる? まともに音が出ないピアノで、あんな演奏をした奴が言う台詞かよ」

ミヒャエルが声を荒らげる。