*俺こんなやつと結婚すんのか

16歳になったら許嫁と暮らしなさい。昔からそう言われていた。
同じ高校生だし、家事もある程度覚えたから生活にはこれといって支障はない。と信じたい。
大企業である西谷家は兄に会社を、妹に他企業と協力のため、政略結婚をさせる。
これといった恋もしていないのにな、とひとり思って待ち合わせのホテルのラウンジに来た。出された紅茶は好きなローズヒップティーなので美味しい。
「済みません遅れました。西谷優様でしょうか」
黒いスーツの人と。自分の高校の先輩が来た。
「東堂さんだ」
東堂蓮さん。絵に書いたような完璧な人。成績優秀、財閥の御曹司(噂は本当だったんだ...)、運動神経抜群、格好が良い。料理が上手って聞いたな。

私ってこんな素晴らしい人と暮らすの?結婚するの?無理。流石に会社のため、西谷家のためとはいい、やめたい。そして帰りたい。
ラウンジの空調は聞いているのに変な汗が出てきそう。女子にすごく人気で、そこで私と付き合うとなると。相当の恨みを喰らうんじゃないかな。
当の本人、東堂さんは親同士で話している隣で紅茶を飲んでいた。すごく絵になっている。何か私達も話さないといけないかな。
「...。俺こんなやつと結婚すんのか?」
東堂さんの声は通った。そもそも人が少ないから互の両親にもその声は聞こえている。
さああと体の温度が下がっていく感じがした。私ってそう思われていたんだ。
「蓮!済みません。うちの愚息が...」
対等になるはずの関係だったが、東堂さんのお父様が謝った。父いや結構ですと言っていた。この商談をどちらかが破棄すると、どちらの会社も下向きに傾く。親同士は青くなっているが東堂さんは出されたコーヒーケーキを綺麗に食べていた。
そりゃそうだよね。とか思って出されたミルフィーユを見た。
一応心得ているけれどミルフィーユは食べにくい。
タルト生地やパイ生地のものはフォークで一気にさしてわけて食べる。ケーキやゼリーだとホッとして食べられるけど、残念ながら今日はミルフィーユ。
最悪、パイ生地を一枚刺しただけで全て粉々になってしまう。
「さあ、私を食べて!」
そんな存在感を放ちクリームときざみ苺がはさまった可愛らしい見た目でソースやジャムで飾られたお皿というステージにちょこんといる彼女。食べにくい。
「あんた、食べないの」
考え事を巡らせていたらコーヒーケーキを食べ終えたのか、暇になったのか。東堂さんが暇つぶしに話しかけてきた。
両親は相続の話をしている。隠居生活でももう考えているのか。せっかくだからミルフィーユの話をしてみる。すこし恥ずかしいな。
「ミルフィーユって食べにくいじゃないですか。今すごく大切な場に居るのによりによってこれかあと思いまして...。ある種試練じゃないかな」
自分で言ってやっぱり恥ずかしい。下を向いて早口で喋った。頬が熱い。
顔を上げたら東堂さんが俯いていた。しかも震えている。
「大丈夫ですか?風邪でもひかれたんじゃ...」
「いや、あんた面白いな」
ハッかれは笑った。さっきまで大人びて達観した、世の中をつまらないと一蹴した様な顔より今の方が、いい。
無邪気な子供が笑ったような。