――雨

ざぁざぁと音を立てて、空虚な街を濡らす。

誰かが、泣いているような、音。



ここは、ひどく、窮屈だ。



遠い昔、「魔女狩り」というものがあった。

罪も無い魔女が、人間が、失われた。

今は、そんなこと忘れている。

人も魔女も、共存して生きている。



長い月日を魔女と共存していくにつれ、人も特別な力を持つようになった。

それが、「超能力者」だ。



今時、両者でもない人間は珍しい。

そのため、ただの人間はひどく、劣等感を感じる。



例えば、俺のような……



「とおる」

少女の幼気な呼び声に俺は振り返った。

振り返ると、傘をさした薄紫掛かった銀髪の少女が朗らかに笑っていた。

「あぁ。」

一緒に帰ろう、とでも言いたいのだろう。

俺は少女の手を引いて歩き始めた。



少女と俺は共に住んでいる。

しかし、血は繋がっていない。



――初めにあったときは、こんな雨空。

魔物と戦っていた時だった。



魔物は本来、「危険区域」というところに居て、特殊部隊が退治する。

しかし、時折、街に来ることもある。

そのために、学校の教育の過程で、自己防衛のための技術を学ぶ。

それは、超能力者や魔女ならば、容易いことだが、人間には難しい。

「魔道具」という、退治のための道具はあるが、時間稼ぎくらいにしかならない。



苦戦していると、どこからともなく、少女が現れた。

そして、矛のような形状の武器を影から出した。

『……あなたは、わるいこだもの』

そう言うと、地面を蹴って、矛を振り上げる。

そして、いとも簡単に魔物を退治してしまった。



唖然とした。



こんな、自分の腰くらいの少女が、俺の4倍くらいの大きさの魔物を倒してしまうなど。



倒し終わると、少女は地面に座り込んだ。

疲れたのかと心配すると、少女は不思議そうに俺を見た。

『あなたは、透明色さん』

そう言うと、影に手を触れる。

何かを拾う仕草をして、立ち上がって、手を差し出した。

そこには、綺麗な透明色の石があった。

『まるで、御伽噺ね……くらい、くらい、きらきら、おいかける。』

ヘンゼルとグレーテルの話をしているのだろうか。

歩き出そうとした少女は立ち止まった。

『でも、また、おいだされるだけ。』

少女は俺を見た。

『わたしには、かえるおうちは、よういされてないもの……』

その目は、真っ暗な夜の色をしていた。

『ひとり、なのか?親は?』

『おかあさん、おとうさん……?……なにも、おもいだせない。』

記憶喪失だろうか。

保護して、警察に届けるべきか?

『いぬさんがね、わたしのいえがわからなくて、ないてるの。』

いぬ?

……犬のおまわりさん、の意味だろうか。

こいつの言葉は意味がわからない。

『だからね、ひとりでだいじょうぶ。あそこにいくと、ひとりだもの。』

少女は寂しそうに笑う。

『………はぁ』

だいじょうぶ、じゃないだろう。



その後、引き取った。

一応警察には届け出たが、どうやら、随分前から捨てられていたようで、孤児院に預けられていたらしい。

しかし、よく抜け出してしまう上、里親が見つからず、困っていたようだ。

「あそこにいくと、ひとりだもの」と言ったのは、そこで溶け込めなかったのだろうか。

……わかりにくい奴だからな。

仕方ないな。

俺が里親だということで、手続きをした。

法律がどうかは知らないが、抜け出されるよりはマシだろう。

今思うと、誘拐紛いではないかとも、思うのだが。



帰宅すると、少女は居間のソファーにちょこんと座る。

そして、温めた牛乳を与えると、嬉しそうににこにこした。

「とおる」

しばらく、牛乳を見つめていた少女は俺を呼ぶ。

「どうした?」

隣りに座って、少女を見た。

少女はにこっと笑って、俺を見る。