信号機の音は無慈悲に響く

俺は菜々子から顔を逸らした。自分でも知らず知らずの内に、唇を噛み締めていた。そのせいか、血が出てしまった。それを見た菜々子は、俺の表情と血に気付いたようで、自転車を留めると、走って、野次馬の中に飛び込んで行った。


俺は罪悪感でいっぱいになりながらも、その場で立ち尽くすしか無かった。


やがて、菜々子が帰ってきた。それも、顔面蒼白で、今にも泣きそうな表情をしている。


「何で……何で私たちがこんな目に遭わないといけないの……?」


菜々子の瞳から、一粒の涙が頬を伝い、顎から落ちた。それが引き金になったのか、途端に、菜々子の顔が泣き崩れた。それと共に、菜々子は糸が切れたように、倒れ込んだ。菜々子は倒れたまま、一向に動く様子は無い。


「な、菜々子……!」


俺は急いで菜々子を抱きかかえた。そっと口元に耳を当ててみると、どうやら眠っているだけのようで、寝息が聴こえた。