深香が見えなくなってからいつもの口調に変わった。

「さてと、行くか。ほら!」

 差し出されたのは礼雅の手。それを最愛は触れようとはしなかった。

「大丈夫だ。こけたりしない、うわっ!」
「だから言っただろ・・・・・・」

 最愛がドアに激突する前に彼の胸に抱き寄せられた。

「素直に握れば良かったものを・・・・・・」
「だって子ども扱いされたみたいだったから」

 最愛が言い返すと、礼雅は小さく笑った。

「前みたいに女として接してほしいのか?」
「前って・・・・・・」

 数ヶ月前に礼雅に押し倒されたことを思い出し、顔を赤くした。

「どうなんだ?」
「してほしくない! あのときは恐怖で頭の中が真っ白だったんだ!」

 先日、礼雅の行動が女に対する接し方ではないことを強く言った。

「それはそれは、怖かったんだな。今度はもっと優しくするからな」
「だから不要だ!」
「遠慮しなくていいのに・・・・・・」

 走ってエレベーターに乗り、一階のボタンを押した。閉まるときに笑ってやろうとしたときに足元で変な音が鳴り、顔を下に向ける.

「ひっ!!」

 大きな靴が片方挟まっているので、最愛はそれしか見ることができなかった。

「俺を置いて逃げようなんて甘いんだよ・・・・・・」
「の、乗るな!」

 靴を履きながら近づくので、ボタンのところから遠くなっていく。

「覚悟しろよ。ちゃんとお仕置きしてやるから」
「い、いやあああああ!!」

 礼雅の顔が凶悪犯のような顔に変わった。最愛の悲鳴が木霊して、静かにドアは閉まった。