人の波に流されないようにすることを考えていると、礼雅がこう言い放つ。

「はぐれるなよ」
「はぐれない。しっかりとしがみついているから」
「ははっ、駄目だ。想像したら笑える」

 また礼雅に子ども扱いをされた。
 最愛がコアラみたいにしがみついているところを礼雅は想像している。

「笑っていると腹が捩れるぞ?」
「だって面白いことになっているからさ」

 最愛にはさっぱりだから、わかるように説明してほしかった。

「屋台もあるのか?」
「あるぜ。でも禁止されていなかったか?」
「そうだったな・・・・・・」

 父に屋台の飲食は禁止されているので、最愛は俯いた。

「近くに店があったか? それとも食事をしてから行くか?」
「食事してから行こうぜ。腹が減ったら、何か買ってやる」
「よし!」

 たくさん強請ろうと思った瞬間、礼雅が漂わせる空気が変わった。

「ただし、浴衣を着たらな」
「絶対人が多いぞ?」

 浴衣だと動きにくいので、いつもの服を着て、行きたいことを告げる。

「夏の風物詩」
「そうだけどさ・・・・・・」
「浴衣は持っているよな?」

 最後に浴衣を着たのは中学二年のときだった。
 何度も浴衣で祭りへ手を繋ぎながら行っていたから、礼雅が知っているのは当然のことだった。

「持っているな」
「決まりな。心配するな、人が多いところは避けるようにするから」

 その後、花火大会に行くことを母に伝えると、デパートへ買い物へ引っ張り出された。

「お母さん、何を買う気だ?」
「浴衣よ。最愛が持っていたものは姉さんに譲ったから」