薄ら笑いをしながら見下ろすと、警備員に取り押さえられている雛は眉を吊り上げて唇を噛んでいる。

「後はお任せしてもいいですよね? それじゃ・・・・・・」
「二度と来ないでね。もう顔も見たくないから!」
「待ちなさいよ! 待ちなさいってば!」

 大学の門を出ても、雛は怒り狂って叫び続けていた。

「雛はもう逃げることができないね」
「それにしても写真を撮られていたなんて・・・・・・」

 今でも恐ろしく身の毛がよだつ。春の季節にもかかわらず、寒さを感じずにはいられなかった。

「最愛、もう危害を加える人はいないよ? それとも腕が痛む?」

 鞄は腕に当たったが、それほど強くなかったので痛みはない。

「痛くないから大丈夫だ。ごめんな、深香。また嫌なことに巻き込んでしまって・・・・・・」
「何言っているのよ! そんなこと言わないで! 全部あいつらが悪いのだから!!」
「そうだよな・・・・・・」

 今度こそ明日に怯えることなく、安心して睡眠をとることができる。そう考えて肩の力を抜いた。

「深香、今日はもう家に帰るのか?」
「うん、帰るよ。金曜の四限のレポートを出さないといけないでしょ?」

 今週レポートを提出しなくてはならないことを言うと、深香は目を見開いた。

「本当に!?」
「もちろんだ。でも、字数制限がないから心配ないな」

 それを聞いた深香は驚いてから顔をしかめた。フォローを入れたが、深香は表情を曇らせている。

「さっさとやらなきゃいけない。他にも小テストがあるのに・・・・・・」
「あるな・・・・・・」

 まだ日にちはあるから焦らずにやるように言った。

「その様子だと最愛はもう終わったんだね?」
「ああ・・・・・・」

 最愛は素直に終わったことを認めた。

「終わったな」
「ずるい! スイーツを奢るから譲って!」
「断る。自分でやれ」

 物で釣ろうとする深香に容赦なく言った。
 家に帰る前にコンビニでスイーツを買うことにした。甘いものが好きな礼雅の分も。