最愛が二人に会いに行くため、椅子から立ち上がって行こうとしたとき、真名がドアの前に立っていた。

「やめておきなよ!」
「どうしてだ・・・・・・」

 危険であることを強く言われても、最愛は引き下がろうとしない。

「このまま野放しにしていたら、もっとひどいことをやりかねない」
「最愛・・・・・・」

 嘘をどこまでも塗り固める人物だと改めて理解して血の気が引いた。
 真名が最愛の肩に触れようとしたときに携帯が鳴った。最愛も真名も肩を震わせて、携帯電話を鞄の中から出すと、発信者は礼雅だった。

「もしもし?」
『よう、文学少女!』

 礼雅は暗い空気なんてお構いなしに、陽気な声で話してきた。

「はい? 用がないなら切るぞ」
『おい、俺が何もなしに電話をしたと本気で思っているのか?』
「思っている」
『用があるから電話をしたんだ・・・・・・』

 礼雅が電話してきた用件を最愛が知ろうとしたら、今度はきちんと話した。

『今な、お前の大学の近くまで来ているけど、もう授業は終わったか?』
「まだ終わっていない。一時間半かかる」
『終わったら連絡しろよ。迎えに行く』

 予想していなかったことを言われて、最愛は少し焦った。

「迎え? 今日仕事があるんじゃなかったのか?」
『仕事は明日だ』
「わかった。またな」

 仕事がある日を間違って記憶していたのだろうか。
 電話を切った直後に真名が携帯電話を一瞥して、問い質してきた。以前に一人っ子だと話していたので、不思議そうな顔をしている。

「お兄ちゃんがいたんだっけ? 最愛」
「同じマンションに住んでいる人だから、兄のように接しているんだ」
「じゃあ本当のお兄ちゃんじゃないんだ」
「そうだ」