「うん。ちっちゃな子どもが親の服を着て楽しんでいるみたい」
「・・・・・・何それ?」

 礼雅なりに褒めているようだが、それは決して褒め言葉じゃない。
 いつまでも窮屈な格好でいたくないので、エレベーターへ向かおうとすると、礼雅もそれに続いた。

「どこかへ行くんじゃなかったの?」
「行こうとは思っていた」

 礼雅はマンションを出ようとしていたのに、向きが百八十度変わった。

「けど、大した用事じゃないからやめた」
「そう・・・・・・」

 最愛がエレベーターに乗って七階のボタンを押そうとする手を礼雅に掴まれ、そのまま六階のボタンを押した。

「何するの!?」
「遊びに来ない?」

 礼雅は今日特に予定がなく、暇なので、最愛に相手をしてもらいたい。

「あのね・・・・・・」
「菓子もあるから。一人で食べていても味気ないんだ」

 美味しい菓子と紅茶があることを知り、さらに最愛の欲が高まった。

「どうする?」
「行くにしても、着替えてからじゃないと・・・・・・」

 このままだと下手をすれば、汚れてしまう。

「俺の部屋で着替えれば?」

 笑顔で恐ろしいことを平然と言われ、最愛は数歩後ろへ下がった。

「絶対に着替えない!」
「残念だな」

 服は当然自分の家にあるから、どっちにしろ上の階へ行かなくてはならない。

「そうだ、忘れるところだった。最愛ちゃん、伝言があるんだ」
「伝言?」

 誰から伝言をもらっているのか考えていると、すぐに教えてくれた。

「お母さんから。今日は帰りが遅くなるみたいだから、夕飯は外で食べるらしいよ」
「そうなんだ、了解」

 そうなると、夕食は一人で食べなくてはならない。