それから再び美鈴の笑顔が消え、暗い影を落とすようになった。周囲の人達が心配して理由を知ろうとしても、美鈴は口を閉ざしたままだった。
 最愛は餌打に気づかれないように、美鈴と会っていた。

「あたし、学校を休む・・・・・・」
「どうしたの? 何か嫌なことでも?」

 質問する最愛に美鈴は何も返事をしなかった。
 あの日のことは最愛にも話さなかった。話せばさらに惨めな気持ちになるから。仮に話したところで状況が何も変わるはずがない。
 だけど、最愛は美鈴が情報室で彼達の話を聞いたことを知っている。

「学校を休んで、解決するの?」
「しない。だけど・・・・・・」

 それでも学校という場所が苦痛で仕方がない。

「私はこれからだって友達だよ。それも疑うようになった?」
「ううん・・・・・・」

 美鈴は泣きながら首を横に振り、顔を両腕で隠した。最愛が美鈴の頭を撫でると、美鈴は最愛に抱きついて、大声を上げて泣きじゃくった。

「やっと諦めてくれたか・・・・・・」

 突き放して、数週間経過して、完全に美鈴の姿を見なくなった。クラスが違う上に階まで違うから、会う約束をしない限り、会うことはほとんどない。
 美鈴に忘れられない傷を作った彼は話をしようとしていた美鈴が近づかなくなったことを喜んでいた。安心して胸を撫で下ろしながら、美鈴の連絡先を削除した。
 その直後、携帯電話のバイブ音が鳴り、ポケットから取り出して、親指で通話ボタンを押した。

『渉君・・・・・・』
「苺果先生?」
『今、時間ある?』

 いつもの角重先生だったら、はっきりと声を出すのに、今日は低く、元気がなかった。

「あるよ」
『だったら、これから会いたいの。お願い・・・・・・』
「いいよ。今、どこに・・・・・・うん、わかった」

 電話を切って、餌打は指定された場所へ向かった。