「・・・・・・誰でも良かったの?」
「いや、お前じゃないと駄目だった。本当だったら、もっと一緒にいるつもりだったけれど、もうやめることにする」
「どうして・・・・・・」

 どんどん顔色を悪くしていく美鈴は縋るように餌打を見つめ続けた。それに対し、鬱陶しさを感じながら、餌打の言葉はまだ続く。

「気になる人ができた」

 その言葉に美鈴は過剰な反応を見せ、さらに顔色を悪くした。

「気になる人? 誰?」
「誰でもいいでしょ?」

 そんなことを言われても、美鈴は納得できず、同じ質問を繰り返す。

「そうだな・・・・・・すごく可愛くて、良い子だよ。お前と違ってしつこくない・・・・・・」
「嘘・・・・・・だよね?」
「本当。とにかくお前はもういらない」

 その場に置き去りにされた美鈴は一人で泣くこと以外、何もすることができなかった。
 話を聞かされた最愛は言葉を失い、顔が真っ青になっていた。
 
「あんたが奪ったんでしょ!?」
「違う! 本当に違う!」
「じゃあ、どうして!? どうして・・・・・・」

 美鈴は頭を抱え込んで、地面に座り込んだ。地面は雨で濡れているのに、美鈴は立ち上がろうとしない。
 美鈴に手を貸そうとしたら、振り払われてしまった。
 俯いていて顔が確認できなかったけれど、美鈴は泣いていた。どうやって慰めようかと最愛が考えていると、美鈴は頭を抱えた。
 一方的に別れを告げられて、美鈴は納得をしていなかった。

「彼はもう、友達と帰ったよ」

 餌打が友達と学校を出たことを最愛は知っていた。どこかへ遊びに行く話をしていたから、家に帰っていないはず。

「本当に?」
「帰ったよ。靴があるかどうか、確認する?」

 首を横に振った美鈴は立ち上がり、ふらつく足取りでどこかへ行ってしまった。
 美鈴も餌打に傷つけられて、それを抱えている。それを思うと、餌打がしたことに怒りが最愛の中で大きくなる。