美鈴が最愛に敵意を向けていた理由はこれだった。
 最愛が餌打を横取りしようとしていないことを言っても、美鈴は聞く耳を持たなかった。

「噂を聞いたのよ・・・・・・」
「何の噂?」
「渉があんたに迫られたから、あんたを好きになって、そういう関係であること!」

 どこまで噂が広がっているのか、もうわからなかった。人間は本当に噂が好きであることを最愛は思い知った。

「この間、渉に何を言われたか教えようか?」
「何を言われたの?」
「前に彼に呼ばれたの・・・・・・」

 以前、美鈴は餌打に携帯電話で呼び出されたので、急いで餌打が待っている場所まで行った。
 好きな人が自分に会いたがっていることを知り、美鈴は嬉しくて、笑みを浮かべていた。
 だけど、そうではなかった。
 

「どうしたの? 突然、呼び出したりしてさ・・・・・・」
「ちょっと話したいことがあったからさ」

 いつもと様子が違うので、何か相談でもあるのかと、このときはまだ思っていた。

「何? 話だったら、いくらでも・・・・・・」
「面倒になった」

 言われたことを理解することができず、美鈴は困惑するだけだった。

「何が?」
「お前のこと、面倒になったんだ」

 餌打のひどい言葉を受けて、美鈴の心は鋭利な刃物で突き刺さった。

「何よそれ? あたしに告白してくれたでしょ? あたしのことが好きなんじゃないの!?」

 それは餌打が美鈴に何度も言ったことで、その度に喜んでいた。

「口ではどうとでも言うことができるだろ? こっちにとって都合が良かったから、近づいただけだ」
「なっ!」
 

 美鈴は足元から崩れてしまいそうなくらいに震えていた。