その日から最愛は餌打が話しかければ、常に笑顔で接して、内心ではずっと快く思っていなかった。
　餌打は他の女子とも気軽に話しかけるが、特に最愛に話しかけるので、生徒達からは恋人同士ではないかと勘違いされるようになった。

「本当のことを言ってよ！」
「だから、本当に恋人じゃないよ！」
「だって、クラスの女の子達が言っていたよ？」

　最愛は何度目かわからない溜息を吐きながら、クラスメイト達の話を聞いている。

「別のクラスの子達も言っていたみたいだよ」
「みんな勘違いしているよ」

　恋愛対象じゃないことを強い口調で言うと、彼女達は互いの顔を見ている。

「そんなに否定してさ、もしかして、好きな人でもいるの？」
「いないよ・・・・・・」

　同じ話題の繰り返しにうんざりしながら、否定する日々が続いていた。餌打は最愛とは逆にその話題を面白がって肯定している。
　一週間後、天気予報を確認していたおかげで、傘を持っていたから良かったものの、雨が嫌いな最愛は学校の外に出ることを少し躊躇った。
　だけど、ずっと学校にいることも気が引けるので、いつものように家に帰るために正門を抜けようとしたとき、同じ制服を着た知らない女子生徒に声をかけられた。

「あんたが・・・・・・名波最愛？」
「そうですけれど、どなたですか？」
「あたしは苗村美鈴」

　知らない名前で、同級生なのかどうかすら、わからない最愛に、自分のクラスが五組であることも教えてくれた。
　それに親しくもないのに、最愛に何の用事があるのだろうか。

「あんたさ、彼に何を言ったの？」
「はい？」

　一瞬、誰のことを言っているのか、わからずに最愛は首を捻った。

「誰のこと？」
「餌打渉！　あたしは彼の恋人だったのよ！」