「正直、何を話せばいいのかわからなくて、それで思わず逃げてしまったの・・・・・・」
「俺のことを許してくれるんだ・・・・・・」

 頭を上げた餌打はさっきの暗い表情と違っていて、明るい笑顔に変わっていた。

「良かった! 許してくれた!」
「なっ!?」

 さっきまでの態度がどこかへ行ってしまったくらいに餌打は元気になっている。

「仲直りができて安心した! やっぱり本当だったんだな!」
「何の話?」
「謝れば最愛は何でも許してくれる話。圭が言っていた! さてと、教室へ戻ろうぜ!」

 最愛の肩を抱いて教室へ戻ろうとしたが、最愛は前に進もうとせず、小銭入れを制服のポケットから出した。

「ジュースを買うから、先に行って・・・・・・」
「そのくらい待つぜ?」

 とにかく一緒に行こうとしているので、最愛は彼を追い払おうと必死になる。

「いい。もし、先生が早めに教室に来たとき、私がすぐに戻ることを言ってもらいたいの」
「わかった。じゃあ後でな!」

 手を振って、餌打がいなくなってから、最愛は溜息を吐いた。
 最愛の予想通り、餌打は何の反省もしていなかった。
 しおらしくしているのは偽りの姿であることはわかっていたので、あんなことを言って、餌打の気を緩めさせた。
 一つ驚いたことは謝った後にあの先生の名前を餌打が口にしたこと。苛立ちを隠しながら、餌打の話を聞いていた。謝れば何でも許してもらえるのだと、思い込んでいる古霜先生と餌打に対する怒りを抑えることがほとんどできなくなっていた。