教室に入ることもそれ以外の場所にも抵抗があった最愛だが、たとえ友達であっても、本当のことを伝えることはできず、嫌な気持ちを抱えながら門をくぐった。
 チャイムが鳴るまで教室へ行きたくないので、購買へ深香を誘ったが、宿題をやり終えていないので、最愛だけで行くことになった。買いたいものがないので、購買へ行く途中にある自販機で何か飲むことにした。
 だけど、そこに先に来ている人物がいて、最愛の足が止まった。
 どうして餌打がここにいるのか。てっきり教室で賑やかにクラスメイト達と喋っているのだと予想していたのに、実際は違っていた。
 最愛が踵を返して立ち去ろうとすると、餌打が追いかけてきた。それでも最愛は足を止めようとはしなかった。

「待って!」

 そんなことを言われて、待つ人なんていない。

「ねえ!」
「待ちたくない・・・・・・」
「お願いだから止まって!」

 追いかけてくる餌打に聞こえないくらいの声で呟いた。
 待つことも返事を返すこともしなかった。名前で呼ばれることすら、最愛にとって嫌だったが、最愛に追いついた餌打は最愛の両肩を掴んで反転させた。

「お願い、話を聞いて!」
「聞きたくない。来ないで・・・・・・」
「本当にごめんな、悪いと思ってる。もうあんなことをしないから。許してくれ!」

 深く頭を下げたままの餌打を見て、最愛は何を言おうか、言葉を選んでいた。
 数日経過しただけで餌打の心が簡単に変わらない。あのときの餌打が本当の姿であることを今でも思っている。

「もういいよ・・・・・・」
「本当に?」

 もちろんそんなの、最愛の嘘に決まっている。