まさか古霜先生が餌打の口から出てくるとは思っていなかったので、最愛はかなり驚いた。

「知らなかった・・・・・・」
「意外と知らない生徒はたくさんいるな」
「言っていないのね・・・・・・」

 そもそも最愛は高校一年生のときから餌打が同じ高校に通っていることすら知らないでいた。クラスが遠く離れていたから、話をするきっかけもなかった。

「意外だな。知っているとばかり思っていた」
「誰からも聞いていないから」

 もしかしたら、最愛が知らなかっただけで噂になっていたのかもしれない。
 とにかくこの話題はここまでにして、別の話題に変えようとしたとき、餌打はまだ話を続けようとしている。

「違う。俺が言いたいのは・・・・・・・」
「・・・・・・何?」
「最愛のことを可愛がっていること」

 それを聞いた最愛は正直焦った。

「他の・・・・・・生徒もでしょ?」
「圭にとって、最愛は他の生徒達と違う・・・・・・」

 思わず最愛が餌打を見ると、餌打の足は一歩、また一歩と最愛に近づいてくる。
 嫌な予感がした最愛が椅子から立ち上がり、逃げようと背を向けたときに肩を爪が食い込むくらいに強く掴まれて、再び正面を向かせられた。

「痛い!」
「あれ? 力が強かった?」

 餌打はほんの少しだけ力を緩めるだけ。

「あのさ、古霜先生から何を聞かされたの?」
「いろいろだよ。ただ、最愛のことをよく話しているね」

 餌打に抱き寄せられ、最愛は強い抵抗を見せたものの、彼の力にはかなわず、暴れる最愛をさらに強く抱きしめる。
 どうしてこんなことをされるのか、最愛は考えていられなかった。

「それで抵抗しているの?」

 最愛の力の弱さは彼にとって好都合なこと。

「・・・・・・やめてよ」
「嫌だね」