さっきの可愛らしい声がほんの少しだけ低くなったように聞こえた。角重先生は安心したけれど、あまりにもつまらなかった。

「それでは・・・・・・」

 この場から立ち去ろうとするも、まだ声をかけてくる。

「あなたはその程度だったのね」
「はい?」

 明らかに馬鹿にした口調だったので、最愛の眉間に皺が寄る。

「驚いた・・・・・・」

 最愛は腹を立てながら、質問をする。

「どういう意味ですか?」
「そのままの意味よ」
「・・・・・・わかりやすく言ってもらえませんか?」

 最愛が後ろを振り向くと、角重先生は両腕を組んだまま、最愛を見ている。

「好きな人がいても、あっさりと身を引いてしまう・・・・・・」

 苛立ちを抱えながら否定する。

「違います。私は・・・・・・」
「違わないでしょ」
 
 最愛が話を聞くように言っても、彼女は少しも聞こうとしていない。
 そもそも最愛は彼のことなんて好きではない。
 そのことを正直に話したとしても、角重先生はきっと信じない。

「もういいわ。引き止めてごめんなさいね?」
「それでは・・・・・・」

 最愛が去ってから溜息がすぐに漏れた。何かを言いたそうにしていたが、邪魔をした。
 今頃どこかで泣いているかもしれないと思いつつ、完全に安心しきっていた。
 言いたいことを言って彼女が暗くなっていくことを見て、角重先生は傷つけることをやめられなくなっていた。